【就労支援事業の報酬改定】Part2「Ⅲ多様な働き方」ではどの項目を選んだ方がいいのか?
こんにちわ!就労支援事業運営.comの管理人です。国内で、就労支援事業所の開業・運営支援を行っています。今回は、前回から引き続き令和3年度報酬改定で就労継続支援A型に新設される「スコア方式」について考察したいと思います。
前回は、令和3年度報酬改定で就労継続支援A型に新設されるスコア方式にある5つの大項目のうち、「Ⅲ多様な働き方」に含まれる8つ選択肢の中で、前半4つの就業規則への整備難易度を考察しました。この「Ⅲ多様な働き方」は、労働環境に関する多様性を①就業規則等に整備し、②実績を残す、という2つの状況で評価されます。加えて、令和3年度の就業規則は令和3年3月31日までに整備が必要なため(岐阜県HPより)、8つの選択肢の整備難易度を考察することは大変重要です。後半4つの項目を見てみましょう。
※本記事投稿時点(令和3年3月26日)では、令和3年度法改定における最終的な報酬告示と留意事項通知は発表されていません。個人の見解も含まれています。解釈は、施設を管轄する市区町村に確認を取ったうえで、自社の責任で取り組んでいただきますよう、お願いいたします。
※本記事の執筆者は労務管理を専門としている社労士等ではありません。解釈には、執筆者の経験に基づく解釈含まれております。
就労継続支援A型のスコア方式における「Ⅲ多様な働き方」の8つの項目
以下の8つの評価要素で構成されています。
- 免許及び資格の取得の促進並びに検定の受験の勧奨に関する事項
- 当該就労継続支援A型事業所の利用者を、職員(利用者を除く)として登用する制度に係る試験等の手続、対象者の要件及び採用時期に関する事項
- 在宅勤務に係る労働条件及び服務規律に関する事項
- フレックスタイム制に係る労働条件に関する事項
- 1日の所定労働時間を短縮するに当たり必要な労働条件に関する事項
- 早出遅出勤務に係る労働条件に関する事項
- 時間を単位として有給休暇を付与又は計画付与制度の取得に関する事項
- 従業者が私的に負傷し、又は疾病にかかった場合の療養のための休暇の取得に関する事項
今回は後半4つについて、取得難易度を「高・中・低」(高の方が取得が難しい)と取得要件を確認してみたいと思います。
(前半4つは、取得難易度のみ記載いたします)
免許及び資格の取得の促進並びに検定の受験の勧奨に関する事項
取得難易度:低
当該就労継続支援A型事業所の利用者を、職員(利用者を除く)として登用する制度に係る試験等の手続、対象者の要件及び採用時期に関する事項
取得難易度:中
在宅勤務に係る労働条件及び服務規律に関する事項
取得難易度:低
フレックスタイム制に係る労働条件に関する事項
取得難易度:高
1日の所定労働時間を短縮するに当たり必要な労働条件に関する事項
取得難易度:低
【目的】
- 障害者個々の就労能力に合わせて柔軟な時間設定を活用できること
- 訓練意義を踏まえ段階的に就労能力を向上できるよう環境整備すること
【就業規則等の整備】
障害者が通常の所定労働時間によらず、1日の所定労働時間が短い労働条件を設定し勤務することができるように、対象者の範囲、労働時間、休憩時間、及び休日、賃金等を就業規則等に規定している場合に1点を取得できます。
【実績】
本規定に基づき、所定労働時間が短い労働条件で勤務した障害者が、前年度に1名以上いる場合に1点を取得できます。
【注意点】
- 所定労働時間が短い就業条件は、育児・介護休業法の規定に基づく所定労働時間の短縮措置とは異なる
- 実績は本規定に対する障害者本人の希望があったことが重要なため、障害者が記入する「申請書」等を整備する方が望ましい
所定労働時間より短い時間で勤務する制度を評価するものになります。この制度によらず、就労支援事業所では、施設と契約初期の障害者に対しては、以下の理由でフルで勤務を指示しないケースがあります。
- 精神障害者等で新しい環境に適応する場合に時間がかかる
- 就労に臨む体力に自信がない障害者は週の勤務日数を変更して就労を開始する
- 段階的に体力向上を目指すため、先ずは半日勤務から利用を開始する
- 所定労働時間通りに勤務していたが、体調の悪化に伴い半日勤務のみで活動する期間を設ける
これらの配慮を実際に行ったことがある事業所は、就業規則等に所定労働時間の柔軟性に関する規程として整備することで、スコアを獲得することが可能と考えています。
早出遅出勤務に係る労働条件に関する事項
取得難易度:中
【目的】
- 障害者のペースに合わせて事業所に通所することができるようにする
- 体調や病状の変化があれど、就労機会は各障害者平等に付与することができるようにする
- 障害者個人の事情による勤務開始・終了時間の希望に対して、平等な就労時間を与えることができるようにする
【就業規則等の整備】
障害者が、1日の所定労働時間を変更することなく、始業または就業時間を変更して勤務を行う制度を就業規則等に規定している場合に1点を取得できます。
【実績】
前年度に本制度を活用して、勤務した障害者が1名以上いる場合に1点を取得できます。
【注意点】
- 本制度を活用する場合は「障害者の要望」が必要なため「申請書」等を整備することが望ましい
就労支援事業所において、障害者の就業時間を柔軟に指示することは、日常でよく発生する対応です。しかし、本規定は「所定労働時間を変更することなく」という点が、実務面でポイントと感じています。
例えば、10~15時(休憩1時間)の所定労働時間である就労支援事業所で、体調不良や通院等の事情で、1時間遅刻してくる障害者は多いです。しかし、その分普段より1時間遅い時間まで勤務を行うように指示するケースは少ないと感じています。この点からも、就業規則上に整備するものの、実績を残すには、自社の業務体制や作業内容を踏まえて検討する必要があるかと思います。
時間を単位として有給休暇を付与又は計画付与制度の取得に関する事項
取得難易度:中
【目的】
- 労働者の権利として付与される有給休暇制度を柔軟に活用できるようにする
【就業規則等の整備】
有給休暇の取得において、労働基準法第39 条第4項の規定されているとおり「時間を単位として与える制度」や、取得時期を定める「年次有給休暇計画的付与制度」を就業規則上に規定し、労使協定を行うことで1点を取得できます。
参考:労働基準法第39 条第4項
【実績】
当該規定に基づいて有給休暇を取得した障害者が、前年度に1名以上いる場合に1点を取得できます。
【注意点】
- 本制度を規定する場合に「労使協定」が必要である
有給休暇の柔軟性を評価した制度になります。一般的に、有給休暇を時間単位で付与すること自体はシンプルな考えですが、事業主側の管理体制をしっかりと整備しないと、煩雑になりかねません。使用している勤怠管理の方法と照らし合わせ、容易に可能であれば整備を検討してよいかもしれません。
従業者が私的に負傷し、又は疾病にかかった場合の療養のための休暇の取得に関する事項
取得難易度:中
【目的】
- 障害者が安心して療養に励むことができるようにする制度
【就業規則等の整備】
就労継続支援A型事業所の障害者が、業務外の事由によって長期にわたる治療等が必要な負傷又は疾病のために、休業等を取得することができる制度を就業規則等に整備している場合に1点を取得できます。
【実績】
障害者の希望により、当該就業規則に基づいて傷病等に関する休暇を取得している実績が、前年度で1件以上ある場合に1点を取得できます。
【注意点】
治療等に関する休暇制度は一般的に「傷病休暇制度」と言われます。実際に、体調の悪化等で事業所を休む障害者はよくいる中、事業主として、復帰に協力する姿勢を示すものとなります。休暇制度や療養に関する規定のため、休暇取得期間中の給与に関する考え方など、コンプライアンスにも注意が必要な項目です。
まとめ
「Ⅲ多様な働き方」では、任意の5項目を選択します。就業規則等と実績を踏まえた取得点数のゴールとして、先ずは6点以上を取得する考え方があります。(こちらを参考:【就労支援事業の報酬改定】A型スコア方式について経営インパクトを軽減する方法を考察)
執筆者の個人的見解で、取得難易度が低い項目は8つ中3つあります。中等度の取得難易度の項目が8つ中4つあるため、自社施設の運営状況等を振り返り、オペレーションに差し支えない範囲で整備いただければと思います。くれぐれも、スコアの点数を確保するために無理やり整備するものではありません。労務環境の整備は、1度規定すると簡単に戻せないものもあり、従業員(障害者、職員含む)との信頼関係を大きく損なうリスクもあります。十分ご留意ください。
就労支援事業運営.comは、全国で就労支援事業所(移行、A型、B型)の開業・運営サポート、業務サポートを行っています。無料の説明会も実施していますので、お気軽にお問い合わせください。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
参考資料
e-gov(外部サイト):労働基準法;https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
厚労省HP:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_16573.html
岐阜県HP:https://www.pref.gifu.lg.jp/page/26472.html