【令和6年度(2024年)報酬改定】就労継続支援A型事業所はつぶれるのか?

【2024年度報酬改定】就労支援事業の主な改定事項

こんにちは。就労支援事業運営.com管理者のまつやんです!令和6年度(2024年)は報酬改定の年です。今回の報酬改定は、1事で言えば、「就労支援事業の根本価値に立ち返る改定」と言えるかもしれません。改めて、事業所として今後1年、3年、5年、10年と長期的なビジョンを掲げて運営することの重要性を感じる内容でした。重要な改訂ポイントと然るべき経営判断について、一緒に確認していきましょう。

はじめに

この記事は、2024年2月6日に、厚生労働省の報酬改定検討チームの協議から発信された報酬改定の動向をまとめたものです。当ページでは、就労継続支援A型事業所の改定内容をまとめています。1ページを確認いただければ、改定の概要がつかめる内容を意識しています。就労継続支援B型事業の動向を確認されたい方は、以下のページをご確認ください。

【2024年報酬改定まとめ】就労継続支援B型はどのように変わる?

注意

この記事は、2024年2月6日時点での情報とその後に発信されたQ&Aを踏まえ、一部発信者の私見を含めて記載しています。法解釈の最終判断は、運営を管轄する市区町村が担います。当ページの情報のみで経営判断は行わず、最終判断は市区町村等に確認いただくことを徹底ください。当ページの情報によって、何かしらの不利益が発生しても、当サイトならびに運営法人は一切の責任を負いません。ご了承ください。

令和6年度(2024年)の改定でA型事業所はどう変わる?

今回の報酬改定を振り返れば、就労継続支援A型としては、「徹底した生産活動の準備」と「利用者との共有」が求められると考えます。主な改定内容は以下のとおりです。

  • スコア方式の評価項目の見直し
  • 処遇改善加算の見直し
  • 送迎加算の対象者が拡充
  • 食事提供体制加算の見直し
  • 施設外就労の実績報告書の提出義務を廃止
  • 施設外支援における個別支援計画見直し回数が変更
  • 情報公開未公表減算の新設
  • 虐待防止措置未実施減算の新設
  • 身体拘束廃止未実施減算の見直し

上記は「主な改定内容」であり、上記以外にも就労継続支援A型が関係する変更内容があります。各自で厚生労働省や指導監査管轄の自治体から発信される情報を確認してください。

主な改定内容の詳細

就労継続支援A型に関連する主な改定内容の詳細を確認しましょう。

スコア方式の評価項目の見直し

令和3年度の報酬改定から導入された「スコア方式」が、今回の報酬改定で見直されました。スコア方式では、事業所の運営における質を5ジャンル(合計200点)で評価し、基本報酬の算定単価を定めるものです。今回の改定では、特に得点配分が従来のものと変わっています。

変更された得点配分は、以下の通りです。

項目従来の点数令和6年度以降
Ⅰ労働時間5~805~90
Ⅱ生産活動5~40-20~60
Ⅲ多様な働き方0~350~15
Ⅳ支援力向上0~350~15
Ⅴ地域連携活動0~100~10
Ⅵ経営改善計画-50~0
Ⅶ利用者の知識・能力の向上0~10

この改定から、次のような制作方針が理解できます。

  • 就業時間を一般雇用の水準に近づけることができている事業所を求めていること
  • 生産活動収益において、最低賃金以上の収益性を担保することは当たり前であり、「達成率」という概念は存在しない状態になっていること
  • 生産活動項目のスコア配分を高めることで、当該項目が未達成である就労継続支援A型事業所は収益性を担保できなくすること
  • 形式的な賃金向上に向けた姿勢は評価されないこと

この改定によって、平成30年頃に散見された、「特定求職者雇用開発助成金」など、事業外収益を魅力として運営する就労継続支援A型事業所は、そもそも存続できない事業構造になってきたと言えます。

処遇改善加算の見直し

従来の3加算(「①福祉・介護職員処遇改善加算」、「②福祉・介護職員特定処遇改善加算」、「③ベースアップ等支援加算」)は、その構造が複雑であり、加算の取得率が想定を下回っている事実がありました。そこで、令和6年度(2024年)の報酬改定で、次のような配慮が行われました。

  • 従来の3加算を1本化すること
  • 従業員への配分に関するルールを減らすこと

[参考]厚生労働省:令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202214_00009.html)

今回の改定によって、処遇改善加算の取得率が高まることが予測されます。これまで福祉・介護職員処遇改善加算等の3加算いずれかの取得を見送っていた事業者は、早めに取得に向けた対応を行わないと、処遇面で他施設よりも遅れるため、離職率や従業員の組織エンゲージメントに影響が生じるリスクがあります。

送迎加算の対象者が拡充

従来は障害者支援施設から日中活動系サービスを提供する施設への送迎は送迎加算の対象になりませんでした。今回の改定により、障害者支援施設からの送迎であっても、隣接した事業所でなければ送迎加算を算定することができるようになります。

これらは、障害者の「地域移行の推進」という議題に対しての対策であり、就労継続支援A型事業所として、積極的にグループホーム等への営業活動が求められるようになりました。

ただし、送迎加算を取得するということは、「自力で通勤ができない」という意味合いでもあります。今回の改定から、新たに送迎加算を取得する計画は、「生産活動からの賃金確保」の論点と逆行することには注意が必要です。

食事提供体制加算の見直し

食事提供加算は、従来から廃止に向けた議論が展開されていました。しかし、生活が困窮状態にある利用者にとって、日中活動サービスでの昼食提供は、唯一健康的な食事を接種できる機会になっているという意見が多く、廃止に踏み切れていなかった実態があります。今回の改定でも、「廃止」とはならなかったものの、加算の取得に対して、次の対応が必要になりました。

  • 管理栄養士等が献立作成に関与、または、献立を確認
  • 利用者ごとに摂取量を記録
  • 利用者ごとに体重の記録

施設外就労の実績報告書の提出義務を廃止

施設外就労を実施する場合、事業者は毎月「実績報告書」を作成し、行政に提出する必要がありました。

[参考]札幌市:「施設外就労実績報告書」のスクリーンショット

提出義務を廃止する理由が、「行政負担の軽減」であることには注意が必要です。すなわち、事業者が当該報告書を作成することは義務であり、行政が求めた場合には、速やかに実態を提出できるようにする必要があります。

もしも作成を怠った場合はどうなるのでしょうか?指導で済むか、勧告・監査・返戻など、行政処分の対象になる可能性があります。これらは、事業所を管轄する市区町村の指導方針によって変わることが想定されます。特に、施設外就労によって、本来通所できる定員以上に訓練等給付金を算定できることから、日々の通所人数が定員数に1.5を乗じた数よりも多い事業所に関しては、より一層注意が必要です。

情報公開未公表減算の新設

令和6年度から事業者に情報公表が義務化されることになります。公表媒体はWAM NETです。先ずは、自身の情報がWAM NETに公表されていない事業者は、早急に対応が必要になります。

[参考]WAM NETへのリンク_https://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/

WAM NETに情報を公表する際には、「必須項目」と「任意項目」が複合している状況です。そのため、情報公表に際して、「どの程度の情報公表が要求されるか?」という論点が全国で発生しています。先ずは、「公表の事実」を担保することが優先のため、必須項目のみを早めに対応しましょう。次に、指導監査を担当する自治体に、「必須項目のみの公表でよいか?」と確認することをおすすめします。

情報公表が義務化された背景に次のような1文があります。

===

利用者への情報公表、災害発生時の迅速な情報共有、財務状況の見える化の推進を図る観点から

===

このことからも、自治体によっては任意項目に含まれる財務諸表の公表を要求する可能性があります。現段階では、市区町村判断と考え、対応が要求されます。

虐待防止措置未実施減算の新設

虐待防止措置として、以下に該当する場合に、減算の対象となります。

  • 虐待防止委員会を定期的に開催していない
  • 虐待防止委員会の開催結果を従業員に周知していない
  • 従業員に対する、定期的な研修が実施されていない
  • 虐待防止措置を適切に運用するための担当者が設置されていない

委員会の開催や従業員への周知、研修実施に関する情報の共有が求められることから、徹底した議事録の管理や研修資料の保管など、エビデンスを意識した運営体制の構築が要求されると考えられます。

身体拘束廃止未実施減算の見直し

身体拘束の適正化を推進する観点から、減算額が引き上げとなります。

従来2024年度以降
減算内容基準を満たしていない場合に、1日につき5単位を所定単位数から減算。基準を満たしていない場合に、所定単位数の1.0%を減算。

※通所系サービスの場合であり、施設・居住系サービスは異なる

身体拘束の適正化措置において、「委員会の開催」が必要項目となるため、虐待防止委員会と同時開催することで、適切な運用を目指すことが求められる。

Q&Aから見られる国の覚悟

今回の報酬改定において、就労継続支援A型の運営に、特に影響が大きいものといえば、「スコア方式における生産活動項目への配分割合が大きくなったこと」といえます。全国の就労継続支援A型事業所において、生産活動収益が最低賃金を上回る事業所は、全体の20~30%水準と想定されるため、多くの事業所が生産活動が要因となってスコアが下がることが想定されます。

スコア方式の減点は、基本サービス費の等級に影響(つまり報酬単価が減ること)するため、中には事業継続が困難になる事業所が出てくることが容易に想定されます。その中で、2024年3月29日に通知されたQ&Aには次のような1文が掲載されています。

上記の内容から、厚生労働省としては、生産活動収支が賃金総額を下回っている事業所には「持続可能性を担保しない」という強い決意が伺えます。加えて、その責任は、事業者ならびに事業者を支援する自治体にあると考えていることが理解できます。

事業戦略と経営判断

今回の報酬改定を踏まえると、就労継続支援A型事業所の令和6年(2024年)以降の事業戦略はどのように考えればよいのでしょうか?報酬改定により事業の継続に影響が生じている場合、その原因の大半を占めるのは「採算性の低い生産活動」にあります。改善するためには、賃金総額を上回る生産活動収支を計上する必要があります。

しかし、生産活動収支の赤字をいきなり黒字化させることは容易ではありません。生産活動の方針を変えていく必要があり、例えば、新たに施設外就労先を確保することは有効な打ち手です。しかし、令和6年度(2024年)より前に、積極的に施設外就労を実施している事業所の場合は、既存案件との兼ね合いがあり、簡単に新規案件を受注できないと考えます。

これらの事象を踏まえ、「施設内生産活動の採算性」と「施設外就労の実施状況」の2軸で経営戦略を打ち出す必要があります。

それぞれの打ち手について考えていきましょう。

打ち手①:事業成長戦略

施設内の生産活動収支が利用者賃金を上回る状況を整備できているのであれば、事業成長を目指した活動に集中するフェーズです。特に、次のような対応が良いと考えます。

  • スコア方式の点数アップによる単価向上
  • 一般就職者の積極的排出に伴う就労移行支援体制加算の計上

スコア方式の点数アップにより、就労継続支援A型事業所における基本サービス費の区分が変わります。基本サービス費の単価が上がれば、利益率に直結するため、事業収益性が向上します。

生産活動項目以外のスコア方式の各項目を考えると、先ずは労働時間項目の向上可能性の検討が必要です。確かに、労働時間の向上により、社会保険の加入など、法定福利費が上がる可能性があります。しかし、先々の報酬改定を考えると法定福利費は必要な先行コストと考えます。

採算性の高い生産活動を持っている武器に、利用者の労働時間を7時間に拡大することを目指します。

また、就労継続支援A型事業の積極的な事業発展を目指す観点では、利用者から一般就職者を排出することで取得できる「就労移行支援体制加算」の活用が考えられます。

就労移行支援体制加算は、就労継続支援A型事業所で支援を受けた後に、企業等に就職(就労継続支援A型事業所を除く)し6ヶ月以上定着したもの1名につき、翌年度の基本サービス費の算定1あたりに所定単位数が加算されるもの。

[参考]厚生労働省HP:障害福祉サービス費等の報酬算定構造;https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001205331.pdf

当該加算は、他の加算と性質がことなります。本来は加算は、事業所が提供した付加価値に対して、その価値提供に要する費用の一部を補填する形で支給されます。(例えば、食事提供加算のように、提供する食事の原価すべてではなく一部のみを提供するなど) しかし、就労移行支援体制加算に関しては、前年度実績に対するインセンティブの位置付けで取得できる加算です。前年度に一般就労後6ヶ月定着者を多く排出している事業所にとっては、加算を取得することに対して費用が発生しないため、利益率の向上に直結します。

打ち手②:生産活動変革

マトリクス上、打ち手②に位置づく就労継続支援A型事業所に関しては、積極的な生産活動の変革が求められます。特に、施設外就労の導入がおすすめです。

施設外就労は、職員と利用者がユニットを組み、企業から請け負った作業を当該企業内で行う生産活動のことを指します。昨今は人材不足の影響もあり、地域企業の中に人手を欲しているところが必ずあります。また、法定雇用率の向上により、障害者雇用を実現するための方法を模索している企業も多いと考えます。

就労継続支援A型であれば、これらの企業ニーズに応えることができます。この提供価値は、就労継続支援A型事業所にとっては生産活動収支におけるプラスのメリットにつながると考えます。

就労継続支援A型事業所が新たに施設外就労を実施するためのアクションプランは以下の通りです。

  • 人員リソースの確認:施設外就労を実施するためには、施設内の人員配置において、常勤換算で1.0以上の余力が必要です。
  • 運営規定・重要事項説明書のチェック:各書面に施設外就労を提供することについて記載が必要です。現在記載がない場合には、変更に際して、利用者・家族への説明と行政への体制変更届の対応が必要になります。
  • 営業用の資料を準備:施設外就労の仕組みや、連携による企業側のメリットに関して記載した資料が必要です。
  • 契約書の準備:企業との取引に際して、契約書が必要になります。
  • 営業リスト:就労継続支援A型事業所として実施できそうな業務を検討し、その事業を展開している近隣企業のリストを作成する必要があります。

上記の対応を通じて、施設外就労先を確保するための営業活動を実施します。

打ち手③:B型転換またはM&A

すでに施設外就労を実施している中、現時点で生産活動収支の改善見込みがない状況であれば、就労継続支援A型事業所として経営再生を実現するにはかなりの労力と費用が必要です。潤沢な資金を確保している状況であれば、改善の余地があります。しかし、2年分のランウェイ(現状が維持された場合に、後何ヶ月事業が持続できるかのこと)が満たせない財務状況であるならば、早いタイミングで事業清算を検討する必要があります。事業清算として、具体的な手法は次の2点です。

  • 就労継続支援B型へのサービス転換
  • M&A

これらの経営課題は、生産活動収支が課題です。就労継続支援A型事業であれば、雇用にもとづく最低賃金により、生産性に関係なく利用者の賃金が発生する状態です。この構造が、生産活動収支を悪化させる要因になっていると考えます。就労継続支援B型事業に転換することで、生産活動の実績に連動する形で工賃を支払うことができます。

工賃については次を参照

もちろん、サービス転換は簡単な事務手続きではありません。サービス転換が必要な背景を整理し、所属する利用者や行政に対して十分に説明と合意を得る必要があります。当然、直接の影響をうけるのは在籍する利用者です。これまで賃金として受け取っていた収入が、工賃になれば大きく変化します。内部説明を通じて、既存の在籍利用者の多くが、事業所転籍となる可能性があります。

ちなみに、

弊社と関わりがある事業所では、実際にサービス転換を実施した結果、残留率は10%程度となりました。

サービス転換以外に、M&Aという方法もあります。現在はどの地域でも就労継続支援A型の新規指定はハードルが高いです。特に、スタートアップメンバーの福祉経験や、サービス管理責任者など専門職の採用などが課題にあがります。資本力のある企業が新たに指定を取得するよりも、既存事業所をM&Aした方が効率的です。

忘れてはいけないことは、就労継続支援A型事業は生産活動収支が赤字にならない事業を持っている企業にとっては大変魅力的な事業であることです。(至極当然のことではあります。それだけ、これまでは生産活動収支の論点を度外視した事業体が多かったという状況です。)

実際に就労継続支援A型事業所の売却を検討される場合は、「事業所を買いたい」という企業を見つける必要があります。そのためには、次のようなアクションが求められます。

  • 経営者交流会に参加する
  • M&Aを仲介する個人・法人に相談する

実際に、当サイトにも就労継続支援事業所を運営したいニーズのある企業からの相談を多く受け付けます。現在、事業所の閉鎖を検討している事業者であったとしても、思わぬきっかけで事業が発展する可能性があります。関心がある方はお気軽に相談ください。

終わりに

2024年度の報酬改定について、就労継続支援A型事業所の視点で整理してみました。生産活動収支の論点は、今回の報酬改定に始まったものではなく、約6年前から積極的に議論されてきたところです。その結果、現在は資本力や大掛かりな設備を有している事業者が優遇されるような体制になってきました。一方で、現在点で就労継続支援A型事業に参画している企業は、時代を読む先見性に優れて、希少価値の高い事業を持っているとも解されます。これまでの実績を無駄にせず、発展的な未来につなげるような事業成長を実現してもらいたいと考えます。

就労支援事業運営.comでは、国内で就労支援事業所の開業・運営支援を行っております。興味のある方は、お問い合わせください。最後までご覧いただきありがとうございます。