就労支援事業所の開設ステップ1_2つの開設理由と理念を明確にする
就労支援事業所の開設を決めたら、早速経営資源の確保に進みましょう。「経営資源」は、一般的に「ヒト・モノ・カネ・情報・知的財産・ブランド・時間」などが該当します。
ネット社会になり、様々な経営資源が得られやすくなりました。しかし、本当に事業で結果を出すためには、高い質の資源を収集できるように進める必要があります。
本記事では、質が高い資源の集め方についてお伝えしていきます。
この記事から得られること
- 効率的に質の高い経営資源を収集するための方法を知ることができる
- 開設準備から開設後もブレない気持ちで進むことができる
この記事の結論
事業を進める上で、「開設理由」や「企業理念」「ビジョン」が明確でないと経営資源を集める際、質を担保することができません。
前回の就労支援事業所の開業でもお伝えした通り、就労支援事業は「ビジネス」と「福祉」のバランスが大変重要です。どちらかに傾いてしまうと、組織マネジメントが難しくなり、最悪の場合組織崩壊をきたすかもしれません。
その対策としても、本文に記載する内容は大変重要だと思います。
就労支援事業所の開設で開設理由・理念・ビジョンなどを最初に定める理由
- 就労支援事業所に関わる様々な利害関係者と連携し、社会貢献を実現するため
- 組織として目標を達成できるチームづくりを進めるため
就労支援事業を成功させるためには、明確な開設理由と理念を持っておく必要があります。
就労支援事業所は、開業前から沢山の福祉関係者の方と関わります。
皆さんは「福祉」という言葉にどのようなイメージを持っていらっしゃるでしょうか?
もちろん、答えのある話ではないと思いますが、経営者として就労支援事業に関わるには、「福祉事業」をしっかりと定義した上で、準備や運営に携わる必要があります。
これは、福祉業界が他の業種と比較しても、圧倒的に離職率が高いこととも関連があります。
福祉施設には最低確保する必要がある人員数が定められているため、人材流失により大きな損失につながるリスクがあります。
開業理由を明確にすることで、開業前の福祉関係者は協力的に情報をシェアしてくれ、事業所で働く仲間は退職の少ないチームとなって活動してくれます。
開設理由の打ち出し方
あなたはどうして数ある事業の中で、「就労支援事業所」で開業したいと思ったのでしょうか?
2020年現在の業界動向として、
- 2019年は閉所する事業所が過去最大となった1年
- 就労支援事業の報酬単価は、「成績連動型」となり、成績が出ていない事業所は売上が下がる仕組みになっている
- 成績の評価は毎年見直すため、常に結果を出し続けることが求められる
結論、中途半端な気持ちでは、事業の開設は難しいと考えます。
それでも尚、就労支援事業所を開業したい!と思った心には、何か熱い想いがあると思います。
先ずはその気持ちを文書にしてみましょう。最低限、以下の項目は自分の言葉で相手に伝えられるようにしておく必要があります。
- なぜ就労支援事業を開業したいと思ったのか
- なぜ就労支援事業は日本に必要なのか
- 会社は就労支援事業通じて何を世の中に発信(アウトカム)したいのか
- 会社は中期目標として、いつまでに、何を、どの程度の実現を目指すのか、またそのためにどのように行動するのか?
- 会社は短期目標として、いつまでに、何を、どの程度の実現を目指すのか、またそのためにどのように行動するのか?
開設理由を明確にする理由
就労支援事業は経営者1人の力で結果を出せる事業ではありません。
法律には「人員配置基準」があり、職員を雇用し、チームで目標を達成する必要があります。
人生において「働く場所」というのは極めて重要な選択になります。
経営者は、職員を採用して、職員の人生を預かって様々な経営判断を行う必要があります。
どのような事業にも言えることですが、日々の運営は思い通りに行かないことが当たり前です。
経営者は、その都度課題を分析し、複数の選択肢から適切な意思決定を行う必要があります。
もし、働いている職員として、人生を預けている経営者からの指示に、一貫性がないと感じたらどのように思うでしょうか?
安心して、目の前の仕事に向き合えないと思います。
このような事態を防ぐためにも、経営者は、会社が目指す方向を明確に定め、全職員と明確に共有する必要があります。
普段の会議でも、何気ない雑談でも、職員が経営者の示した指針を軸に意見を出し合える環境でなければなりません。
残念ながら、2019年は過去最高件数の就労支援事業所が閉所しました。
閉所理由は色々あると思います。
1つ、確実に言えることは「事業資金が足りなくなったから」だと思います。
就労支援事業は、簡単ではありません。
簡単に利用者が集まるビジネスモデルではありません。
そのため、全職員が「利用者に通所してもらう」という意識を持つ必要があります。
【参考著書】
実例から学ぶ就労支援事業を開設した直後のトラブルとは
以前、筆者が所属していた就労支援継続支援A型事業所でこの様な議論が発生しました。
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議論の内容は、A型の利用者に新しい仕事として何を準備するか。
当時の代表は、最低賃金以上を稼ぐのは段階的に進めるため、
先ずは時間・一人あたり500円の稼ぎが期待できる仕事の確保を進めていました。
それまで、利用者は自施設のパンフレットの折込業務などを行っていました。
そんな中、生活支援員の一人が「毎日同じ仕事で、利用者が可愛そう」という個人的判断で、知り合いの業者から仕事を受注し利用者に提供します。
その仕事内容は採算性が低く、利用者一人が1時間に生み出せる売上は200円弱。
結果、当時の代表が考えていた月の売上目標は全く達成できませんでした。
利用者は、一部の利用者は新しい仕事ができて楽しかったと話し、少数の利用者は新しい環境に適応できずに休職となりました。
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皆さんは、この話を聞いてどう思いますか?
2017年当時のもので、まだ、就労継続支援A型事業所の新規開設の規制がゆるく、生産活動に対して厳しい行政指導の政策が広がる前の話です。
当時の代表は堅実であったため、最低賃金をクリアできるように仕事を組み立てていましたが、施設のスタッフが同じマインドで進むことができなかった状況です。
今振り返ると、
この会社では明確に理念とビジョンが打ち出せておらず、自然と定量的な目標は見えていませんでした。
従業員は個人の価値観で判断し、仕事を進めていたと感じます。
もちろん、新規設立の事業所に、従業員ひとりひとりを丁寧に教育する時間はありません。
ある程度、職員のキャリアで構築された価値観に委ねて業務を進めることはあります。
ただし、実現したいゴールが職員ごとに異なっていてはチームは分断するだけです。
会社が目指すべき最終地点を共有するために、職員の行動指針となる理念・ビジョン(ゴール)は明確に示す必要があるのです。
理念・ビジョンの違いとは?
会社理念とビジョンの違いや、その他に、Misson(使命)、Value(価値観)など、組織マネジメントの考え方については、諸説あります。
シンプルにまとめると、
■理念:ベースとなる考え方
■ビジョン:組織的な目的で将来のあるべき姿
■使命:社会的な目的
■価値観:組織的な行動
となります。
就労支援事業所の開設時に会社理念・ビジョンを示すことのメリット
- 経営判断を下す時に社員の賛同を得られやすい
- スタッフの離職率を下げることができる
- 意思決定スピードが上がりゴールへの道筋が最短になる
就労支援事業所の開設時に会社理念・ビジョンを示さないとどうなる?
- 代表者の経営判断を行う時、不毛な議論が発生しやすい
- スタッフマネジメントや採用活動に時間が割かれてしまう
- 事業所として経営的・福祉的結果が出ない
就労支援事業所の開設時に示した理念・ビジョンをどう活用する?
採用活動で共感度合いを確認する
打ち出した理念は飾りではありません。必ず採用活動で求職者に伝えてみましょう。
その際、「同意・賛同・建設的な意見」が出る求職者であれば、入職後もゴール達成に向けて成果を出してくれると思います。
しかし、「否定・過去の武勇伝・内容を理解していないような相槌」である場合、採用は慎重に考えた方が良いと思います。
就労支援事業所は飲食店のように、完全なマニュアルを整備できる仕事ではありません。
制度変化や、障がい者とのコミュニケーションが中心のため、スタッフの知的判断を求められるビジネスのため、採用段階での戦略が大変重要です。
こちらの記事も参考にしてみてください。職員がやめる?~採用する段階から戦略を組んでいますか?も参照。
定期的にリマインド
会社であれば、週次、月次、2ヶ月に1度程度の会議の場を設けます。
会社理念を、しっかりと振り返る時間を設けましょう。
そして、スタッフの深層心理にセットし、職員全員で同じ方向を向いて業務を行うように心がけましょう。
参考になる書籍も掲載しておきます。
ご存知でない方は必ずぜひ読んでみてください。
就労支援事業を成功に導くためのヒントが強く含まれています。
さいごに
就労支援事業所を開設するのであれば、組織マネジメントの視点が大変重要です。
不用意に準備だけ進めて、開設後に全員違う方向を向いている状態ができてしまうと、修正することが大変難しくなります。
チームビルドの段階的考えで、タックマンモデルという考え方があります。
チームは、同じゴールを認識して進んでいたとしても、「混乱期」というそれぞれの思想がぶつかり合う時期があります。
ここを以下に早く乗り越えるかが大変重要です。
これだけ失敗する事業所が多い中、筆者は全国で10施設以上の開設をサポートしました。
中には、うまくチームが形成できず、業績が上がらなかった事業所もあります。
その失敗のパターンとしては、この記事に載せているような事業所の軸となる考えが定まっていないということがありました。
十分に注意し進めましょう!