就労支援事業の開業する際に、出店エリアは大変重要です。
オーナーが就労支援事業に参入する目的はそれぞれですが、「どうしてもこのエリアでなければならない理由」が無い限り、ターゲットエリアを比較したうえで意思決定する必要があります。
さらに、一度決めた物件は簡単に手放すことはできません。
就労支援事業所は行政からの許認可を受けるため、「施設基準」をクリアする必要があります。施設基準は様々な法律の要件を満たす必要があるため、すぐにピッタリの物件が見つかるわけではないのです。
開業エリアは戦略として大変重要なので、時間を使って精査いただければと思います。
以下に、出店エリアを確認するポイントについて解説します。
エリア調査を行う目的
- 就労支援事業所の開業後に最短で損益分岐点を突破する
- 中長期的に安定して収益を確保する
エリア調査で集める情報
最低限、以下の情報を収集する必要があります
- 人口推移
- 障害者数の推移
- 交通網
- 競合他社
- 市区町村の見解
- 県庁の見解
効果的に検討するフレームワーク
コア・コンピタンス分析のフレームワークを応用すると効率的に開業エリアを比較することができます。別のトピックで当フレームワークについてまとめていますので、こちらをご確認いただければ幸いです。
各情報の集める理由と集め方
人口推移
ターゲットとする市区町村の人口推移は確認しておきましょう。これは、今後この地域は経済性が高まる地域なのか判断するために重要です。
就労支援事業所は、一度開設すると何年も運営します。近年は障害者が地域企業と積極的に関わることで社会参加を促進するよう、制度整備されております。
経済発展性の高い地域を選ぶようにしましょう。
調べ方はシンプルに検索エンジン(GoogleやYahoo!など)を活用していただければと思います。
障害者数の推移と密度
人口と同じように障害者数の推移も大切です。事業を進めるにあたり、まずは地域の障害者の中で自社の施設に関心を持っていただくことが、早期に黒字化するためのポイントになります。実際に運用を始めてしっかりと差別化とアウトリーチができれば、地元だけでなく他の市区町村や他県からも障害者が通所する施設になります。
傾向として、B型事業所は障害区分の高い方(障害が重い方)の利用割合が高まるので、立地によっては送迎サービスなどの活用を検討します。
エリアを比較する際は、障害者密度もポイントです。人口100人あたり何人の障害者が在住しているかを確認します。
執筆者の実感ですが、障害密度が低いエリアで運用すると精神障害者の割合が高くなります。逆に、障害密度が高いエリアで運用すると、知的と発達障害者の割合が高くなります。
開業を検討しているサービスによって、数値化した際の解釈が変わってくるかと思います。
障害者人口推移の調べ方については、検討エリアの市区町村が発表している「障害福祉計画」を見ていただくか、検索エンジンを活用してみるのが良いと思います。
交通網
アクセスは重要です。特に、2つ以上の路線とアクセスが可能な立地は、筆者個人として必須の要素と感じています。
アクセスがなぜ理想かは論を持たない話です。
ただし、デメリットとして、地代家賃が高くなることがあります。スタートアップの会社にとって、固定費は死活問題です。アクセスの悪い物件でも、浮いたコストで他社が実施していない付加価値をアピールすることで、施設運営にメリットとなるかもしれません。
さらに、令和3年度の報酬改定から、新型コロナ期間の臨時措置であった「リモート通所」が常時活用できるようになりました。
どの企業でも同じですが、政策と技術進歩により、「良い物件」の概念は変わっていくかもしれません。
交通網の優れている物件の調べ方は、不動産会社の担当者に相談することがいいと思います。
競合他社の数
競合調査は大変重要です。
障害者が就労支援事業所を活用する場合、住民票がある市区町村の障害福祉課で「受給者証」を発行してもらう必要があります。その際、市の職員が障害者の担当となり認定調査を行います。職員からは障害者に対して、必ず他の施設も見学してから最終確定するようにとアドバイスする傾向があります。
つまり、利用者が施設に通所する場合、必ず「他社との比較」というプロセスが発生するのです。
この際に、特色のない施設作りを進めてしまうと他社の利用者となる可能性も高まります。
まずはエリア調査を行う場合、競合他社の数を明確に把握した上で比較する必要があります。
競合数が少ない方が、障害者が自社を見つけてから利用開始となるまでのリードタイムを減らすことができるでしょう。
競合施設の数を調査する場合、独立行政法人福祉医療機構が運営するポータルサイト「WAM NET」を活用すると正確に把握できると思います。
トップページのバナーにある障害福祉サービス等情報検索から、開業を検討しているエリアを指定し確認してみてください。
(想像より施設数が多いと驚くかもしれません)
市区町村の意見
就労支援事業所を開業するエリアの市区町村に直接ヒアリングを行うことも忘れずに実施ください。
障害者の生活を支える機関としてのハブは市区町村です。担当者と話をすることで、地域の福祉資源として何が不足しており、逆に充足しているのか貴重な意見を得ることができます。
注意点として、市区町村によって面談までのフローが異なるケースがあります。場合によって、県庁等(許認可を担当する窓口)が実施する説明会に参加してからヒアリングを依頼されることもあります。また、ただ話をしにいくのではなく、明確な参入経緯とイメージしている支援特色など具体的な話を踏まえて意見交換することが求められます。
(詳しくは、前回の記事をご確認ください)
加えて、面談内容は議事録として残してください。地域によっては許認可を受ける際に必要となります。
県庁等の意見
市区町村と同様、県庁にもヒアリングを行う必要があります。確認する内容は市区町村とは異なります。ここで把握することは「許認可手続きの難易度」です。就労支援事業所の開業時に県庁等と協議を実施します。この協議プロセスが、地域により異なってきます。(例えば、東京や埼玉で就労支援事業所を開設する場合は県庁との協議の前に、「事業説明会」に参加する必要があります。)指定申請までの難易度を把握しておかないと、いざ準備をスタートしたのに、半年経っても何も進まないということもあり得ます。
まずは、開業を検討するエリアの県庁等に直接連絡し、ヒアリングを行っていただければと思います。
エリア調査のメリット
- 就労支援事業開業に向けて時間対効果を最大化できる
- 早期黒字化を達成するためのアクションを具体化できる
- 地域への広報活動を効率化できる
エリア調査のデメリット
- 机上の空論で終わる可能性がある
- 明確な根拠を捉えようとすると時間がかかる
- 選び抜いたエリアに基準を満たす物件が見つからない可能性もある
まとめ
エリア調査は、いわゆる「マーケティング」の入り口部分になります。個人的に大事にしていることは、実際に机上で実施する調査と足で集める情報とのバランスです。
就労支援事業所のような物件が必要な福祉事業では、簡単にエリアを移せないため、出店場所は「なぜそこを選んだのか?」という根拠を明確にする必要があります。エリア調査には時間をかけず、ある程度傾向を掴んだら、次のステップの物件選定を進めていく必要があります。ぜひ前向きになる計画立てを進めていただければと思います。
就労支援事業所の開業に向けたエリア調査のサポート(有料)を行っていますので、関心がある方はお問い合わせいただければと思います。