就労支援事業所の開業を考えた最初に知っていただきたいことは「全体像」です。
先ずは開業にかかる全体像をご紹介いたします。
就労支援事業開業の期間と全体工程
開業にかかる期間は、最低でも6ヶ月は必要と考えてください。
もし、既に別事業をお持ちの方で、会社の従業員と連携して就労支援立ち上げる場合、6か月分の人件費で約200万の経費が必要ということになります。
ざっくりの全体工程は以下のとおりです。
- 就労支援事業所開業の目的・理由の整理
- 就労支援事業所を開業するエリアの調査
特に「障害福祉計画」が重要 - 就労支援事業所の開業に向けて資金計画(収支シミュレーション)を実施する
- 就労支援事業所の開業を検討している市区町村窓口に相談(同意書が必要)
- 就労支援事業所の開業に向けて資金調達の計画立案
- 就労支援事業所の開業に向けて法人設立
- 就労支援事業所の開業に向けて物件調査
- 就労支援事業所の開業に向けて人員確保
- 就労支援事業所の開業に向けて市区町村担当者と事前協議
- 就労支援事業所の開業に向けて資金調達
- 就労支援事業所の開業に向けて備品を揃える
- 就労支援事業所の開業に向けて広報用資料整備
- 就労支援事業所の開業に向けて職員研修を行う
- 就労支援事業所の開業に向けて営業活動を行う
※工程は各市区町村により工程は大きく変わる可能性があります
就労支援事業所開業の全体スケジュールにおける留意点
- 就労支援事業所の開業スケジュールは市区町村の担当者で解釈がことなるケースがある
- 就労支援事業所の開業するなら市区町村の担当者と何度か会うので「開業動機」を明確にして関わる必要がある
就労支援事業はソーシャルビジネスです。
「福祉性」と「事業性」のバランスが大変重要になります。
この点で誤解されがちなのが、「立ち上げ」さえすれば、簡単に利用者(障害者)が施設に集まると思っていることです。
事業所数も大変多くなり、施設から戦略的に営業活動を実施しなければ、当然利用者はあつまりません。
・過去に経営の経験がない
・「簡単に儲かる」と聞いて始めた
・営業は嫌い
・マネジメントに戦略は不要
このような認識でスタートすると、大変リスクがあることに注意してください。
就労支援事業所の開業が難しい理由
- 就労支援事業は、固定費率の高い事業である
- 就労支援事業は、資金繰りが難しい
- 就労支援事業は、売上単価をあげることが難しい
就労支援事業は、固定比率が高い事業である理由
就労支援事業所は固定費がとてもかかる事業です。
主な固定費としては、
①家賃
②人件費
③消耗品費用
が挙げられます。
家賃は、エリアによります。
必要な物件の広さに関しては、約100m2でトイレ、手洗い場、事務室、訓練スペース、多目的スペースなどが必要になります。
坪単価10,000円だとして、毎月33万円が必要となります。
※東京都では、坪単価15,000円となることもあります。
人件費ですが、就労支援事業所は開業時点で、4〜5名の人員が必要となります。
国税庁が平成29年度に実施した「民間給与実態統計調査結果」に基づくと、
福祉の平均月収は27万円
エリアや職種によっても変わります。
開業初期は、オーナーを人員に換算し、かつ、無報酬であることを想定すると、
正社員、約3名分の人件費が必要となります。
27万円 × 3名分 = 81万円/月 が必要となります。
油断できないの消耗品費用です。
簿記会計では、「購入価格10万円以下の備品類」と定義されています。
施設で使用する、文房具、紙類、プリンターのインク、清掃道具、事業廃棄物の処理料金などなど、
毎月5~10万円くらいかかってきます。
※月による変動が大きい
主要なコストだけで合計すると、ざっと134万円です。
ここで注意するべきなのが、上記のコストは一部であり、ここから従業員の社会保険料や交通費、法定福利費、通信費、法人税、連携する士業への報酬支払いなど、細かい費用が発生します。
就労支援事業において、資金繰りが難しい理由
事業を行う上で、資金繰りは命です。
資金が1円でも足りなくなる(資金ショート)したら倒産です。
就労支援事業所は、売上が手元資金になるまでに「特性」があるため、綿密な計画を立てる必要があります。
では「特性」とはなにか?
実は、就労支援事業所をはじめソーシャルビジネスは、1ヶ月分の売上が会社の銀行口座に入金されるまでに、約1ヶ月半かかります。
飲食店などであれば、
前日材料を買って仕込みを行い、翌日にお店で販売します。
お客さんが現金で購入してくれれば、すぐに手元に売上が残ります。
就労支援事業所の場合、異なります。
先ず1ヶ月間、事業所でご利用者様の支援を行います。
月末には、1ヶ月間の施設利用実績を作成し、国民健康保険団体連合会にサービス費の請求を行います。
その請求したお金が
会社に入るのは、翌月の中旬です。
つまり、1ヶ月分の売上が会社に入るのは、約2ヶ月後になります。
その間、固定費や消耗品などのコストを払い続ける必要があるわけです。
図 売上入金イメージ
就労支援事業は売上単価を上げることが難しい
ビジネスで売上を上げるためには、
①リピート率を上げる
②新規顧客数を増やす
③客単価を上げる
この3つが重要です。
中でも、最も優先的に実施するべきなのが「③客単価を上げる」になります。
就労支援事業所における単価は、利用者1人が施設を利用することで得る「サービス費」のことをいいます。
サービス費(単価)を上げる方法は各サービスによりことなります。
●就労移行支援事業所:前年の一般就職後の定着(6か月離職しない)実績に基づき算出
●就労継続支援A型:スコア表を活用し事業所の生産性を算出する
●就労継続支援B型:利用者に支払った月次の平均工賃額
つまり、事業所の「実績」が単価向上のポイントとなります。
実績を上げるためには、福祉施設として、利用者の「体調安定」「技術向上」「生産性向上」などに明確な戦略を立て進めていく必要があります。
当然、従業員個々の福祉支援に関するスキルも重要なので、外部の研修や社内勉強会を積極的に実施する必要があります。
新規施設で、初めて障害者と関わるオーナーが運営する場合、実績を残すことが大変難しいです。
新規立ち上げ施設は、3年後から単価が下がるリスクが高いと考えて計画を立てることをおススメします。
就労支援事業開業のメリットとは?
就労支援事業は、「人間関係」の事業です。
就労継続支援A型、就労継続支援B型、就労移行支援それぞれで特徴が異なりますが、
全サービスに共通するメリットは以下の通りです。
- 就労支援事業は制度ビジネスのため競合との価格競争がない
- 就労支援事業は信用力の強さで長期安定的な利益が見込める
- 就労支援事業は労働集約型ビジネスとの親和性が高い
その他の細かい事業の特徴は、下記をご参照ください。
就労支援事業は、制度ビジネスのため競合との価格競争がない
飲食店や小売業では、価格競争が大変多い業界です。
消費者は、各社を比較して価格の検討は常に行います。
順調に売上が上がっていても、経営者が戦略を間違えた場合、一気に赤字に転落するリスクもあります。
この点、ソーシャルビジネスは価格競争がありません。
経営戦略で「適正価格」という変数が無くなることは、大きなメリットになります。
就労支援事業は、信用力の強さで長期安定的な利益が見込める
就労支援事業所の信用力は「実績」で決まります。
よく、就労移行支援事業所のHPで「定着実績90%!」などと記載しているものがありますね。
他にも就労継続支援A型、就労継続支援B型のHPに、平均のお給料実績が記載されているものあります。
制度においても、令和3年4月以降、就労継続支援A型事業所では事業所の実績を反映する「スコア表」をHPに掲載することを義務付けました。
就労支援事業所を活用する利用者も、事業所数が増えた昨今では、必ずHPなどから事業所を比較します。
長期安定的に利用者が集まる事業を創造するためには、「実績」を残し、「発信」することが大変重要であると考えています。
就労支援事業は、労働集約型ビジネスとの親和性が高い
就労継続支援事業所を無事に開業できたということは、大きなリソースを得たことになります。
それは、「マンパワー」です。
就労継続支援A型・B型、就労移行支援の全てで共通するのは、「働く意欲のある障がい者」が集まることです。
事業所の規模によりますが、定員数は比較的20人規模の事業所が多いです。
成人が20人集まったら、凄く大きな仕事ができると思いませんか?
しかも、事業所の家賃やスタッフ、光熱費や消耗品などの設備経費は「給付金」として、国がサポートしてくれるのです。
労働集約型の事業を通じて、再現性の高い工程を障害者に任せることができれば、高い生産性を担保することができます。
とはいえ、都合のより仕事を簡単に作れるわけではないので、経営戦略を明確に立案し、職員は営業活動にしっかりと取り組む必要があります。
まとめ
就労支援事業を開設するには、先ずはこの特徴的な福祉事業の全体像を把握する必要があります。
経営視点で言えば、資金繰りが難しいことや営業課題が多きことあります。
福祉視点で言えば、様々な障害者に対して、体調の安定化や目標設定・進捗確認など、ステップアップの機会を提供する仕組みが重要です。
このことを理解したうえで、開業に向けて準備を進める必要があります。
当サイトでは、良質な就労支援事業所の開設をサポートできるよう、私自身が現場で経験したことや、実際に経営した中で培ったノウハウをお伝えしていきます。