【取材】行政担当者に聞いてみた!|就労支援事業において大切なこと

行政
かねやん
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「取材シリーズ」では実際に障がい福祉サービスに関わる皆様に、現場で働いた事がある人にしかわからない、リアルな情報を発信しています!

中川透(元公務員、障がい福祉を含む各行政事務に従事)

福祉行政の職場で、多方面の福祉業務に従事。事業所の新規指定や適切な運営を実現できるように業務を行っていた。公務員を退職後、在宅ワークを通じて、ご自身の経験などを情報発信している。

かねやん
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これまで行政の立場から、障がい者の社会復帰を促進に貢献いただいた中川様に取材しました。障がい福祉サービス事業所が意識する必要がある、大切なことについてお話いただいています。

インタビュー内容

これまでにどのような活動をされていらっしゃいましたか?

自分の経験を活かして、Webライティングの仕事を行っています。

 病気のため3年ほど前に自治体(都道府県)を退職し、現在は在宅でWebライティングを中心に活動しています。自分では執筆分野を特定していないのですが、福祉関連や自動車関連など、業務経験や趣味の知見が活かせる分野の依頼を多く受けています。

行政の窓口ではどのような業務を行っていましたか?

制度の移り変わりを感じながら、幅広い業務に従事しました。

 公務員歴25年のうち、福祉行政にはトータルで12年携わっていました。初めて福祉分野に関わったのは平成ヒト桁、精神薄弱者という呼称を使用していた頃に知的障がい者の相談援護業務を担当しており、実際に障がいをもつ方々との面談を行っていました。生活保護のケースワーカーとしての現業事務も併行して、5年間相談業務に従事しました。

 その後は何回か他部局でのブランクをはさみ、福祉業務は計3回経験しています。2回目及び3回目の福祉行政事務では、貸付や児童扶養手当などの母子福祉分野を担当した後、社会福祉法人の設立や指導、施設のいわゆるハコ物整備、保育所をはじめとした児童福祉施設の認可など、庶務以外で想定されるひととおりの業務を経験していました。

 平成12年に施行された、社会福祉事業法から社会福祉法への改称の前後ともに福祉の情勢を知ることができた点は、特に指導業務において強みを発揮できたのかなと思っています。

 福祉のほかには、土木や観光・人事や福利厚生など職員に関する分野を経験しています。

最近の障がい福祉サービスに対してどのような印象を持っていますか?

「基準さえ合致しているば・・・」と考えている事業者が増えている印象です。

 障がい福祉サービスの契約という考え方はもともと介護保険で導入された理念です。事業所周りをする中「障がいをもつ方の権利は擁護されるべきだが、その手段としての契約制度は制度に合わないのかな」と感じていました。

 措置の実務をしていた当時も一方的な手続きをすることはなく、常に申込者や御家族の意向は丁寧に反映させていたつもりです。

 現在のサービスは、乱暴にいえば「基準さえ合致していれば何でもあり」という印象もあり、従来のように行政が責任をもって対象者を支援する方がいいのではないかというのが個人的な意見です。

行政からみて、良い事業所と悪い事業所の違いはどのようなものがありますか?

「ステップアップへの意識」が重要であると感じています

 どの視点をもって良し悪しを語るかということもありますが、利用者の視点で考えればやはり「確実なステップアップがイメージできる事業所」が良い事業所ではないかと思います。

 そのためには安心してサービスを利用できるような事業所の環境整備は必須だと思いますが、ハードよりはむしろ運営や支援の質などソフト面の充実が重要ではないかと考えています。

 いずれにせよ、事業所の良し悪しは行政や事業所が判断するものではなく、利用者の方が評価するものだと思います。意思疎通が困難な方もいらっしゃいますが、できるだけそういう方の声も拾い上げていただけるところが、強いて言えば良い事業所の目安になるのではないでしょうか。

行政から見て、ご利用者様が集まる事業所と集まらない事業所の違いはどのように感じますか?

職員の高いモチベーションこそ、利用者の集まる事業所につながると感じています

 また就労支援サービスでは事業所により作業内容が異なりますが、安定した作業量を確保できる事業所には利用者が集まりやすいのではないだろうか、という印象もあります。

 担当した地域管内では、農業や自動車整備工場などを本業としながら、障がい者の方ができる範囲の仕事を就労支援で担当してもらうという事例もありました。

 そういった事業主であれば作業の外注をしなくてもいいため、サービス提供により専念できると思います。

 もうひとつ傾向として感じたのが、利用者が集まる事業所は職員の労働環境も含め体制がしっかりしているという点です。スタッフが働きやすい環境を調えることでモチベーションが上がり、丁寧で質の高いサービス提供にもつながるという側面は、意外に見落としがちな点かもしれません。

実態として、「障がい者を優先的に紹介する」というような贔屓に見る事業所はあるのでしょうか?

正直に「無い」とおもいます。ただし、事業者がやれることがあります。

 元都道府県職員で利用や自己負担額の決定には携わっていなかったのでなんともいえませんが、管内の市町村でそのような扱いをしているという話は聞いたことがありませんでした。

 優先順位とは違う話ですが、「市町村窓口で聞き取りをする際は、利用者や希望者の声を最大限に反映していた」という声は、事業所を通じて多く聞こえてきました。

 その点を考慮すると指定を担当する都道府県等だけでなく、程度区分や支給決定の事務を担う市町村に活動内容を知っていただくことが重要だと思います。

行政に信頼される事業所に特徴はありますか?

見かけだけでない、「適切な運営」に向けた姿勢こそ、行政に信頼されるポイントです!

 決して偏見をもっているわけではありませんが、「指定申請などでわからないことは質問していただきしっかりと理解すること」、「指定後に依頼する提出物や報告の期限を守っていただくこと」、また「運営してわからない点や悩みがあるときは、実地指導まで持ち越さず随時問い合わせていただく」など、行政の担当との密なコミュニケーションが共通した特徴として印象に残っています。

 もちろんスムーズな運営をしていただきやり取りがないのが最善なのですが、歴史の長い法人やいわゆる作業所時代から経験を積まれている事業所でもなければ、まめなコミュニケーションがとれるところは信頼度のアップに直結しているのではないでしょうか。

行政に気に入られるとどのようなメリットがあるのでしょうか?

当然!行政の職員も人間です!

 行政職員もひとりの人間なので、指定や指導の基準はあるものの運用にはどうしても細かな差異が生じるのではないでしょうか。

 決して甘い運用をするということではありませんが、行政との信頼関係が構築できていないと、「事業所としてやっていけるのだろうか」と心配になり指導や審査が厳しくなりがちなのは、経験則上の傾向としてありました。

どうすれば行政からの評価を上げることができるのでしょうか?

「行政」も「プライベート」も、評価の上げ方は同じです!

 プライベートの人間関係にも共通しますが、担当者同士「(支障のない範囲で)隠し事をしない」「嘘をつかない」事業所は、お互いの強い信頼関係につながると考えます。

 収容・措置時代から歴史のある施設・事業所では「役員が行政の幹部に挨拶をして」というところがまだ散見されますが、幹部職員は文字通り挨拶としか解釈しません。

 あくまでも担当者間の信頼関係が行政からの高い評価につながる、と考えていただければと思います。

これから障がい福祉サービスを開業したい!という皆様に一言お願いします

 福祉という言葉の意味は「しあわせ」、福祉分野の仕事は「利用者もサービス提供者もしあわせにするための仕事」だと思っています。したがって慈愛の精神や権利擁護などは、福祉に携わる立場として常に念頭に置いていただきたいです。

 ただし善意だけでできるサービスではなく、極端な利潤を追求しないという前提ではありますが、事業として成り立つビジネスモデルの構築や長期的なビジョンが求められるという点は、一般企業と共通していると思います。

 これから障がい福祉サービスを始めたい方には、是非福祉とビジネスのバランスを意識していただければというのが、福祉に携わった経験をもつ者として希望することです。

中川透様の現在の活動

現在はWebライターとして執筆の活動に励んでいる。自身の経験や趣味を活かした記事として、福祉関係や自動車関連の執筆活動が中心。就労支援事業における大切なことや、経営がうまくいく事業所の特徴などの知見が深い。

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