今回は就労継続支援A型事業所の成功の秘訣についてご説明いたします。
就労継続支援A型を成功させるためには、
ズバリ!
「A型利用者に、最低賃金以上を支払うことができる仕事を受注し、受注作業の利益から給与を支払うこと」
になります。
シンプルですね。
「いやいや、まて、それが一番むずかしいんだよ」
「簡単に言わないで欲しい」
「さては現場をしらないな?」
などなどの声が、画面の先から聞こえて来るような気がします。
もちろん、この難しさは痛いほど分かっているつもりです。
しかし、私自身で就労継続支援A型事業所で、
最低賃金に見合う仕事を受注し、利用者に給与を支払っている事業所をいくつか取材しました。
更に、実運営に携わっていた就労継続支援A型事業所では、
実際に受注業務で、最低賃金以上の給与支払いをクリアしました。
その秘訣には、ついやってしまいがちの就労継続支援A型の悪しき常識を払拭することにあります。
今回はそのノウハウをお伝えいたします。
就労継続支援A型ではなぜ最低賃金をクリアできないのか
先ずは、現状の就労継続支援A型に根付いている、悪しき常識を振り返り、なぜ最低賃金をクリアできないのか、原因を分析しましょう!
就労継続支援A型では「軽作業」が基本という考えにより給与が支払えない
繰り返しになりますが、就労継続支援A型では、ご利用者様と雇用契約を締結し、施設内で”仕事”を実施します。
皆さんは、「障がい者に仕事を与える」と考えたとき、どの様な作業を想定しますか?
結論から言うと、健常者と全く変わりません。
就労継続支援A型で仕事をする利用者の作業能力は、そこれへんにいる健常者と何も変わらないのです。
しかし、実際に、仕事で最低賃金以上を稼げていない就労継続支援A型事業を取材してみると、往々にして、勘違いしている事業所が多いことに気が付きます。
特に、キャリアの中で福祉施設で働いたことが無い経営者や、「介護福祉」の経験しかない支援員、病院勤務しか経験のない支援員などは典型的です。
それは、障がい者の仕事=簡単・単純なものと考え、軽作業などを受注していることにあります。
「軽作業」というのは、内職の様な仕事を言います。
例えば、お菓子の箱折や、ダイレクトメールの封入と言った仕事のことを指します。
箱折の仕事であれば、
相場として1箱あたり、0.5~2円の売上です。
仮に時給1,000円を支払う場合には、労働分配率2/3と考えて、1,500円を売り上げる必要がありますので、
1時間に箱を750~3,000個の箱を一人でさばく技術が必要です。
一箱2円の高単価商品でも、4.8秒で1箱作り上げるイメージです。
かなり難しいですよね?
そこで、考えてもらいたいのが、
なぜか利用者に提供する仕事は、「軽作業」であるという先入観です。
作業難易度の低いものが障がい者の仕事ではありません。
では、どの様な仕事が障がい者に向いているのでしょうか?
私が、過去に勤めていた就労継続支援A型では、
①工程の分業性
②期限の柔軟性
③作業の見読性
を重視していました。
工程の分業制とは
就労継続支援A型では、施設内で約20名の利用者が活躍します。
しかし、受注している作業を「20名全員で同じ仕事をする」という体制は要注意です。
理由は、
利用者のモチベーションが変わらないため、マネジメント・支援コストが余分に生じてしまう
からです。
人間のモチベーションが上がるトリガーとして、「自分が他者から必要とされる存在である」と認知することがあります。そうすることで、脳内から幸福ホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌が促進されるという研究があるからです。
シンプルに言うと、他者より自分が優れていると思える環境が重要です。
それを、就労継続支援A型の施設に生かす場合、
業務いくつかの難易度にわけて、利用者の能力に合わせて配置します。
事業所を利用する中で、作業能力が向上してくれば、一つ難易度が高い工程に移動するなど、「昇格基準」を設けることもいいと思います。
そうすることで、利用者ひとりひとりに段階的な目標ができ、日々の業務に関してモチベーションが上がる仕組みとなります。
分業制で組みたてることができる仕事が、就労継続支援A型にふさわしいものと考えます。
期限の柔軟性とは
就労継続支援A型の利用者は、やはり体調の変化があり、突発的に欠勤するリスクがあります。
そのため、マンパワーは安定しないと考えたほうが良いです。
期限が明確に決まっている仕事を受注すると、
利用者の欠勤によりマンパワーが変化し、納期に遅れる、結果事業所のスタッフが残業してさばくというリスクが有ります。
期限に柔軟性のある業務を受託するほうが理想的です。
しかし、世の中の仕事に、期限のないものなどありません。
ここで重要なのは、欠席者がでても納品期間に影響が出ないような仕組みを構築することにあります。
具体的な方法としては、
前述した様な、分業制のオペレーションを構築し、
各部門3名で実施できる業務に利用者を最大5名まで配置する
というやり方があります。
この様な体型を組むことで、
a.作業にバッファ生まれる
b.利用者の急な休みを利用者でフォローしあえる体制となる
c.従業員が福祉アセスメント業務に集中できる
というメリットが期待できます。
作業の見読性とは
かんたんに言うと、「見える化」です。
ご利用者様に仕事を提供する場合に重要なポイントがあります。
それは、抽象的な指示を与えず、具体的な手順記載されているマニュアルを整備することです。
これは、「障がいにより作業が苦手で、手取り足取りのマニュアルが必要」という意味ではありません。
むしろ、作業能力が高いので、「事業所のスタッフが伝えた指示よりも効率の良い方法を自身で見つけ、許可なく実行してしまう」からです。
就労継続支援A型に通所する利用者は、かなり頭の回転が早いです。(故に精神疾患の診断がおりるとも考えられます。)
あまりに、抽象的な指示では、作業内容に自分で納得できず、独自解釈でやり方を変えてしまう可能性があります。
しかも、目的ではなく手段に対するこだわりで、現場の統率がとれずに組織崩壊のリスクがあります。
先ずは、作業工程を明確な見える化した”基準”を作る必要があります。
その基準が作れる業務こそ、就労継続支援A型で求められる仕事と言えます。
就労継続支援A型では支援員が福祉的支援に携われない
現在、ほとんどの就労継続支援A型では、利用者の仕事の納品・受注作業などを支援員が実施しているケースがあります。
当然、業務の品質管理は責任のある仕事のため、支援員が責任を持って対応する必要があります。
しかし、1日の業務が、作業の納品・管理・受注などの追われてしまっては、利用者を支援する福祉業務に関われていないケースが多いです。
もう少し具体的にお伝えすると。
サービス管理責任者が作成する個別支援計画には、利用者のアセスメントに基づいた、改善されるべき「特性」「個性」について目標設定されています。
例えば、「コミュニケーション」が苦手な利用者に対して、「話し相手の顔を見て作業を行う」や「必ずメモを取って人の話を聞く」というような目標です。
サービス管理責任者の業務は、支援員の福祉業務体制を、しっかりと構築しない場合、激務となってしまい、日々、立案した目標の達成具合をチェックすることができません。
その場合、他の支援員が日中の利用者を観察し、目標の達成度合いをアセスメントする必要があります。
残念ながら、この大切な工程を、ほとんどの事業所ができていません。
できない理由は、「作業の受注・納品・品質管理」などの業務に追われてしまうからです。
では、どのようにして改善するか。
私が実践した方法として、
①利用者にも役職を設け、責任のある業務を役職者に実施してもらう方法
②支援員の職種(職業指導員、生活支援員など)にあるそれぞれの専門性を生かした支援体制を構築する方法
があります。
②について補足すると、支援員の専門的業務には、以下のようなものがあげられます。
●職業指導員:生産ラインの効率化、品質管理のサポート、リーダー的ポジションの利用者に対するマネジメントのアドバイス など
●生活支援員:対人関係の円滑化フォロー、メンタル変動のアセスメント、日常生活と仕事にフォーカスした支援 など
就労支援事業は、「福祉施設」です。
利用者と関わるプロフェッショナルとして、最も高いパフォーマンスを発揮できるように、適材適所の役割配置を、再度意識する必要があります。
就労継続支援A型ではビジネス経験のあるスタッフが少ない
ちなみに、ここまで就労継続支援A型にある悪しき常識と打開策について記載してきました。
しかし、これらの内容については、一般企業ではごく当たり前の話です。
ビジネスを進めていく上で、「命令が人を動かす」のではなく、「仕組みが人を動かす」という思考が構築されているのが、組織であり、企業です。
福祉施設といえど、例外ではありません。
就労支援事業では、事業所の規模で変わりますが、平均的に利用者と職員を合わせて約60名が一斉に行動します。
60名の会社って、現代の世の中では、かなり大きい規模ですよね。
では、質問です。
就労支援事業所で働くスタッフの中で、60名規模の組織に所属し、マネジメントや役職業務に携わったことがある人はどれくらいいますか?
そして、就労支援事業所の開業を決意し、準備初期の採用活動で、このようなキャリアのある人材を確保できる可能性はどれくらいあるのでしょうか。
なかなか、運だけでは進まない話で、最後は、代表者の経営判断・戦略勝負になります。
代表者のあなたは、60名の人生を背負っています。
マネジメント経験が少ない人材が多いなら、マネジメント教育に投資するなど、的確な経営判断を行いましょう。
この必要な判断を経営者が行えないことも、就労支援事業所が軌道に乗らない主の原因になります。
就労継続支援A型で最低賃金をクリアする簡単な方法
ここまで、一般的な就労継続支援A型で言われているマクロな課題について考えました。
では、これらの課題を解決するのは、何のゴールに向かってでしょうか?
就労継続支援A型での答えは一つ、
利用者の最低賃金を利用者の仕事で稼ぎ、給与を支払う仕組みを構築することにあります。
私が、実践した方法をお伝えします。
但し、ここでは、「この仕事をやればOK!」という話は一切ありません。
そんな、答えのような仕事があれば、みんなとっくに始めてます笑
時代の変化とともに、仕事の内容については、かなり進化しています。
お伝えするのは、その進化に乗り遅れないように、クリティカルに仕事を見つける方法です。
では行きましょう!
就労継続支援A型に適した事業を知る
まずは最初のステップですが、
世の中のビジネスをもっと知ってください。
代表だけが知ればいいというものではありません。
全支援員で知る必要があります。
中には、
「福祉現場で経験を積んだスタッフにいきなりビジネスの話はできない」
「反発されるリスクがある」
と敬遠している経営者もいることでしょう。
そんな時代は終わりました。
施設が潰れますよ?(本当に)
これからは、事業所の全支援員が積極的に経営参加する事業所づくりを行わないといけません。
その最初のステップとして、世の中の新しいビジネスを知る必要があります。
最初の手順として、フランチャイズ事業を取りまとめた無料サイトに全職員が登録し、ビジネスモデルを勉強する必要があります。
様々なフランチャイズビジネスが掲載されており、主にオーナー向けの記事になっているので、収益ポイントや、投資回収のスピードなどがわかりやすく記載されています。
その中で、前述した①工程の分業性、②期限の柔軟性、③作業の見読性が確保されていそうなビジネスを知ることにあります。
フランチャイズ紹介サイトは沢山ありますが、私のオススメは、「マイナビ独立」です。
世の中の多種多様なビジネスモデルに触れることができ、かつ、開業規模も小さいものから大きな事業まで幅広く掲載されています。
また、株式会社マイナビという大手企業が運営母体なので、
サイトが非常に見やすいです。
唯一のデメリットと言えば、メールマガジンが送られてくることにありますが、設定で変えられますし、あまりメリットが無いと感じれば、退会すればいいだけです。
無料で、就労継続支援A型を成功させる情報が多いので、登録しない意味がわかりません。
是非試してみてください。
就労継続支援A型のオペレーション戦略を変える
前述したとおり、
就労継続支援A型で行う支援員の業務を、利用者アセスメント業務を中心にする体制に変えるべきです。
しかし、利用者には作業のやり方などを教える必要があります。
その場合、コミュニケーションエラーが少ない利用者を「指導役」に任命し、利用者同士で関われるようにするべきです。
支援員は、指導役の利用者がしっかりと他の利用者とコミュニケーションが取れているか、確認し、フォローするの仕事が重要です。
福祉事業所として、
せっかく作成した個別支援計画を「絵に書いた餅」にせず、利用者の人生を預かっているというプロの意識を持って、より適材適所の業務分担を行いましょう。
就労継続支援A型の利用者に役職を与える
何度かお伝えしている通り、利用者には役職を設けるべきです。
目的として、
①モチベーションを維持するため
②向上心を高めるため
③職員の業務負担を軽減するため
があげられます。
モチベーションを維持する
人間のモチベーションを高めるためには、自分自身が必要とされる存在であるという「自己の有能感」が重要です。
そうすると、利用者の退所リスクを軽減することができ、生産性の向上も期待できます。
向上心を高める
さらに、役職というポジションは、施設の中で身近な存在のため、短期・中期的な目標設定に繋がります。
目標設定の立案方法に、SMART法という概念があります。
特に、Specific(具体的)でAchievement(達成可能)な設定が必要です。
利用者に付与されている役職を目指すという目標は、利用者であれば誰にでもチャンスがある設定なので、向上心を高める方向に効果が期待できます。
職員の業務負担を軽減する
これらの対応を通じて、作業の指導役を育成しましょう。
支援員は福祉的業務以外の業務は全て利用者の業務と考える必要があります。
その視点こそ、限られた時間を、より福祉や障がい者の支援に捧げる方法と言えます。
就労継続支援A型で実際に仕事を生み出すポイント
ここまで色々と記載してきましたが、
最も重要なポイントが就労継続支援A型で仕事を生み出すことです。(当たり前だ!と言いたくなりますね。)
最初に言っておくと、先行投資の考えと、投資回収の計画をしっかりと構築してください。
そして、世の中の様々なビジネスモデルを、就労継続支援A型用にブラッシュアップして考えてください。
実際に私が所属している事業所で実践した方法は以下の通りです。
就労継続支援A型にフランチャイズ事業を応用する
先ずは、先程記載したマイナビ独立を活用し、仕事を創造することが良いと思います。
(参考)
就労継続支援A型の財務状況に合わせて、初期投資の資金規模を選択することができます。
もちろん、
マイナビ独立に掲載されている案件と、実際に契約するのではなく、世の中のビジネスモデルにふれる機会として考えても大丈夫です。
私は、このマイナビ独立を参考にして、訪問型マッサージ事業を施設内で行いました。
利用者7名とスタッフは実質1名で、月間80万の売上を3ヶ月で実現しました。
このマッサージ事業は、マイナビ独立の掲載案件と契約したわけではありません。
世の中のビジネスを知り、就労継続支援A型のマンパワーを応用して実現した方法です。
就労継続支援A型の作業マニュアルを整備する
しかし、ビジネスモデルを知ったとしても、注意があります。
それは、就労継続支援A型の利用者向けに設計されたマニュアルでは無いということです。
前述したとおり、利用者は頭の回転が早く、抽象的な指示だと目的を忘れ、手段に強いこだわりを示してしまうことがあります。
そのため、利用者向けのマニュアルとして、各工程を具体的に記載したものを整備する必要があります。
就労継続支援A型の作業アセスメント表を整備する
そして、最も重要な工程として、
作成したマニュアルの各工程における完成度をアセスメントする「アセスメント表」を作成しましょう。
難しく考えなくて大丈夫です。
各工程に対して、1~4点で点数を記載するような書式でOKです。
ーーー
【点数の付け方】
1:改善が必要
2:すこし改善が必要
3:できている
4:完璧にできている
(それぞれの点数の理由)
ーーー
アセスメントのポイントは、定量的な尺度を用いて測ることにあります。
信頼性と妥当性を持って、利用者と接する仕組みが構築されることで、利用者の人事考課にも役立てることができ、最低賃金をクリアするための課題もより明確になることでしょう。
さいごに
就労継続支援A型では、最低賃金を支払うに見合う仕事の受注と給与の支払いを実現することが、目下の課題となっております。
この様な話を、実際に就労継続支援A型で働く支援員と議論すると、「無理ですよ」などと諦めているスタッフも多いのが現状です。
正直に申し上げて、無理なのは職員のあなた自身に能力が無いからであって、利用者の能力は、かなり高いです。
実際に、私自身、何度も最低賃金をクリアしています。
今回はそのノウハウをお伝えしました。
是非、ご自身の職場でも議題に上げ、参考にしていただければ幸いです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。