要チェック!文献から読み解くプログラム作成戦略

勉強会(支援者向けコンテンツ)

就労支援事業所で、特に就労移行支援事業所における訓練プログラムの作成が重要であることは言うまでもありません。

加えて、就労継続支援A型/B型事業所でも、一般就職を見据えて訓練プログラムを設定する必要性は論を持たない事実です。

この場合、果たして全利用者(身体・知的・精神障がい等)に対して、共通のプログラムを設定しても良いのでしょうか?

今回は、地域の授産施設を利用している利用者を対象とした就労意欲調査を読み解き、障がい種別毎のプログラムの目的を考えていきたいと思います。


本稿では、複数回使用する言葉を以下の通り定義します。

就職:施設の利用契約から一般企業との雇用契約に変わることをいう

就労:施設でも企業でも関係なく、労働に対して対価を得る活動のことをいう

授産所:障害を抱えた人々を他より隔離された環境において雇用する事業所や団体である[1]。援助付き雇用と異なるのは、これが一般雇用から切り離された部門で行われる点である[1][2]。授産所の設置は生活保護法を根拠とし、保護施設の一つとして、おもに政府機関や社会福祉法人などの団体によって行なわれている。2006年までは、おもに障害者関連の法律(身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健福祉法)に基づいて作られている法定授産施設と、それ以外のいわゆる小規模授産施設の2種類に大きく分けられていた。2006年の障害者自立支援法施行後は、法定授産施設は障害者自立支援法を障害福祉サービスを提供する施設、事業所に移行した。
(引用:Wikipedia)

就労支援事業所における訓練プログラム

一般的に就労支援事業所では、「就職に活かせる」という大義名分のもと、利用者個別に目標を定めます。その目標は個別のものとして、定期的に立案し、利用者本人と共有します(個別支援計画)。

プログラムの内容は施設により個性が出ます。
以下は一例です。


▽ビジネスマナー訓練

  • 挨拶の仕方
  • スーツの着方、身だしなみ
  • 名刺交換のやり方
  • 上司への声のかけ方
  • 5W1Hについて
  • 電話応対のやり方
  • アポイント先への訪問方法
  • メモのとり方
  • 質問のやり方
  • 上司への報告書の作り方
    など

▽グループワーク

  • 新聞読解の意見交換
  • お題を決めてディスカッション
  • 与えられた課題をグループ全員で達成する(例)A4の紙を高く積み上げるには?

▽就職活動のやり方

  • 求人票の見方
  • 履歴書の書き方
  • 起業見学会での見るべきポイント
  • 採用面接対策
  • 自己PR方法

▽スキル訓練

  • ブラインドタッチ練習
  • PC操作方法
  • Microsoft Office練習
  • イラストレーター・フォトショップ操作
  • ワードプレス操作
  • プログラミング
  • ビジネスメール訓練
  • 言葉の使い方
  • 封筒の書き方
  • アンガーマネジメント方法
  • ストレスコーピング方法

▽健康習慣訓練

  • 運動習慣の作り方
  • 食事のとり方
  • コンビニ食で注意するべきポイント
  • 良質な睡眠のとり方
  • ストレッチ講座
  • マインドフルネス講座
  • 自分の障がいについて知る(障害受容)講座
  • 植物栽培(作業療法)

▽その他

  • 地域のふれあい祭りへの出店
  • 映画鑑賞
  • 季節イベントの実施
    など

これらは一例に過ぎず、多種多様な訓練を施設で実施しています。

一見、就労移行支援事業所での話に聞こえますが、
事業所によってはA型/B型事業所でも一部の利用者(一般就職が近い利用者)に提供しているケースがあります

施設により、個性の出る訓練プログラムですが、
目的としては以下の通りです。

  1. 利用者の就職活動に活かしてもらうため
  2. 一般就職後も職場に定着できるための能力にするため
  3. 他の施設では真似することができない差別化したプログラムにするため
  4. 利用者が「来たく」なる動機するため

これらを軸に、訓練プログラムは多様性が生まれ、いろいろな施設のホームページを見ても勉強になることが多いです。

就職意欲について

古いデータにはなりますが、
障がい者2,543人を対象として、授産施設等の通所施設を利用している障がい者が一般就職に向けてどのような意識を持っているかについて、報告されたデータ※1があります。

※1)田中、朝日 他:福祉的就労障害者における雇用への行こうと自立生活に向けた意識;琉球大学教育学部障害児教育実施センター紀要,No6,27-40,2004.

身体障がい者の就労意欲

【基本データ】
調査人数:200人
年齢層:40~50歳代で過半数
性別:男性80.5%、女性19.5%
障害内容:肢体不自由、聴覚言語障害、視覚障害が主
一般就労経験者:49.5%

【質問と回答】
1.授産施設を出て一般就職して働きたいか?

2.企業で働きたい理由

3.企業で働きたくない理由

知的障がい者の就労意欲

【基本データ】
調査人数:1,093人
年齢層:20歳代が44.7%、30歳代が30.5%、その他
性別:男性60%、女性40%
障害程度:重度34.9%、中度41.4%、軽度20.4%
一般就労経験者:21.3%

【質問と回答】

1.授産施設を出て、一般就職して働きたいか?

2.企業で働きたい理由

3.企業で働きたくない理由

精神障がい者の就労意欲

【基本データ】
調査人数:467人
年齢層:30歳~40歳代で過半数を占めている
性別:男性73.4%、女性25.5%
障害程度:統合失調症70.2%、その他11.0%、うつ病7.0%、神経症5.5%
一般就労経験者:69%

【質問と回答】

1.授産施設を出て、一般就職して働きたいか?

2.企業で働きたい理由

3.企業で働きたくない理由

就労意欲の分析

通所型施設に通う障がい者を対象とした本研究を見ると、就労継続支援(ここでいう授産施設)において、身体/知的/精神を比較すると、精神障がい者が就職に意欲的ということがわかる。

この意欲というのは訓練を実施する際に大変重要です。

ヤーキーズ・ドットソンの法則からも、訓練効果を高める、つまり学習効果を高めるためには適度な興奮度が必要で、この興奮度はモチベーションとも言いかえることができます。

継続支援事業所でも、一般就職を目指すことが重要な昨今では、利用者一人ひとりに対して、一般就職を目指すマインドに切り替えるための戦略が重要になります

では、なぜ?就職を目指さない利用者がいるのでしょうか?

「企業で働きたくない理由」を分析すると

①今の生活で満足=将来への危機感への欠如
②能力に自身が無い=失敗体験への恐れと成功体験・報酬の欠如

という2つの要素が主因であることが分かります。

更に、「企業で働きたい理由」を分析すると、

①普通のところで働きたい=社会的地位への危機感
②生活を豊かにしたい、高い給料がほしい=経済的要因

の2つが動機の主因となっていることが分かります。

プログラム制定の考え方

以上のことから、

就労支援事業所(とくに継続支援事業所)において、効果の出るプログラムを制定するためには、
日々の訓練に向けたモチベーションの維持をはかるため、

・就労支援事業所の社会的位置づけ
・一般就職することで得られる経済的メリット

を利用者に伝えて行く必要があります。

更には、失敗・成功体験とも連動させる視点が必要なため、
スキルプログラムの実施後、実践する環境を用意し、経済的メリットを感受できる環境を作る必要があります。

更には、施設の利用者にも社会的地位を用意する必要があるため
例えば、
スタッフ⇨サブリーダー⇨リーダー ⇨ 副主任 ⇨ 主任
というようなヒエラルキーが与えられる環境に設定することも有用であることが示唆されます。

さいごに

これらは、実際に私達が現場で実践し、大変効果の高かった方法になります。
特に社会的地位と、そこに与えられる経済的変化は、利用者ひとりひとりのモチベーションに繋がり、出席率が大きく変化した取り組みでした。

一般企業における現場マネジメントと全く同じ構造です。

就労継続支援A型/B型、就労移行支援事業所でも全く同様の視点で、高い運営効果が期待できるので、是非試していただけたら嬉しく思います。

最後までご覧いただき、ありがとうございます!

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